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  怪談!熊さんの百物語

キジムナー

沖縄には、キジムナーの伝説があちこちに残っています。勿論、僕の家でも度々キジムナーを見た、とかあれはキジムナーの仕業に違い無い、とか言った類いの話が出ます。

 そもそも、キジムナーとは何か?「ガジュマル」の木の妖精の事なんです。古く大きくなって、魂が宿るようになったガジュマルの木に、子供の姿をした精霊が宿ると言われています。

 度々人間に悪戯や悪さをする事が知られており、沖縄ではその手の逸話や伝説が点在しているわけです。単に子供の姿をして出現するだけでは無くて、他の生物に変化する事が知られており、未だに多くの人が信じているのです。

 さて、子供の頃から幾つも聞かされていた話の中で、特に印象深い話を致しましょうか?これは、亡くなった祖父から聞いた話ですが、キジムナーが変身した話です。

(by 上原潤


今から七十年位前の話になります。

 祖父は未だ若者で、毎日畑仕事に精を出していたそうな。未だ第二次世界大戦が始まる前で、沖縄にGHQが、進駐軍が来る前の話。

 祖父はいつもの様に砂糖黍畑に向かって歩いていたそうな。相棒の水牛を連れてね。牛は力持ちだから、畑を耕す事も砂糖黍を運搬する事も砂糖黍を圧搾してジュースを取る事もできるのよ。いつもの様に、砂糖黍を刈り取っていたんですって。刈り取った砂糖黍は、食用や加工にする軸の部分と、家畜の飼料にする葉っぱの部分とに分けるの。凄い大量の砂糖黍だから、水牛に運んでもらうつもりだったのよ。

 作業がひと段落する迄、畑の傍に生えている大きなガジュマルの木に水牛を繋いで作業をしていたんですって。暫くして、大きな鼻息が聞こえるから、不審に思って振り返ったら、何と水牛が祖父に向かって突進して来たんですって。

 驚いた祖父は、宥めようとしたけれど、全く言う事を聞かずに暴れるものだから、祖父は逃げ出したの。あぜ道をどこまでもどこまでも追い掛けてくるんですって。角で串刺しにされるかと思って、必死で何処迄も逃げたんですって、、、。

 ところが、畑が切れた辺りの土手を転がり落ちたところで、プッツリ水牛の姿が見えなくなったんですって。辺りを恐る恐る探しても、何も居ないんですって。そのうち遠くの方から、とても悲しそうな水牛の声が聞こえて来ました。心配になった祖父が林の奥に行ってみると、、。

 祖父の水牛が、林の奥のアダンの木に繋がれているでは有りませんか。一体誰がこんな所に水牛を繋いだのでしょう?この辺りは祖父の一族の土地で、誰も住んでは居ません。さっき迄暴れていた水牛は何だったのでしょうか?何故突然消えたのでしょうか?

 水牛は大変大人しい動物で、飼い主が好きなものです。温厚で我慢強く、従順な動物なのに、、、。祖父は言いました。「あれはウチの水牛じゃ無い!ガジュマルの木に繋いでばかりいたから、キジムナーが怒って、水牛に化けて脅したのだ。」本当の所は分かりませんが、今は亡き祖父がいつも話していた昔話です。

 もう一つ、母が子供の頃の話です。戦争が終わって、沖縄が焼け野原になって、ようやくあちらこちらにバラックが建ち、人々は何とか人間らしい生活を取り戻しつつ有った頃の話です。

 当時の沖縄は人口の半分近くが戦争で死に、産業はおろか全ての機能が止まってしまったのです。進駐軍に占拠され、植民地となった沖縄は、レイプ、暴行、略奪、絶望のどん底に瀕していました。

 玩具なんて当然無いわけですから、野山で遊ぶか、海で遊ぶか、それしかないわけね。母は巫女の家系に生まれたので、「御山」で遊んだわけです。沖縄で聖地と言うのは、大抵誰も分からない所に在って、神職に関わる人間しか知りません。それも男子禁制の場所であって、女性以外は入れないのです。

 勿論、今日の御獄(ウタキ、と読みます)の様に、人の目に触れるものも在りますが、御神体の岩や森は、母の実家のような「ユタ」(いわゆる巫女ですね)が秘密裏に管理して後世に伝えるのが慣例です。ですから、彼女は一番或意味安全な「御山」で遊んでいたの。

 いつもいつも「御山」でばかり遊んでいたので、或日祖母が心配して様子を見に行ったの。そうしたら、、、、母が一人であれこれ誰かとお喋りをしながら、ガジュマルの木の周りで遊んでいたのですって。独り言では無く、明らかに「見えない誰か」と遊んでいたんですって。恐ろしくなった祖母は、慌てて母を連れ出して、家に帰ったんですって。

 後になって母曰く「あの木の所に、おかしな男の子がいつも居たのよ。髪の毛がアメリカ人みたいに赤くて、大きな目をした男の子なのよ。でもね、すごくあたしには親切で、沢山遊んでくれたの。だから毎日退屈になると、彼の所に行っていたの。でも、変ね?おばあちゃんには見えなかったらしいのよ。」

 母の家族は、未だにその「見えない友達」をキジムナーだと僕に話している。いつも独りで森の中で遊んでいる少女。もしかしたら、そんな巫女の娘を気の毒に思って、遊んでくれたのかも知れません。何しろ、我が家は代々その森を守って生きて来たわけですから。
 今日はちょっと変な話を書いてみました。どう思うかは、読者の皆さんの御自由に、と言う事で、、、。
 沖縄の民間伝承もたまには良いでしょ?


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