僕が昔付き合っていた人で、神奈川のはずれに実家が在る人が居たの。以前から先方のお母さんに紹介されていたので、大歓迎されたのね。
オバサン(先方のお母さん)は、僕の大好物を沢山作って待っててくれるの。オバサンの得意番は「お赤飯」と「法蓮草のお浸し」なの。大好きな物をちゃんと憶えててくれて、僕に沢山作ってくれるの。その時はお正月だったから、アイツが帰省するっていうから連れて来られたの。
オバサンは凄く喜んでくれて、来て良かったなあ、って思ったの。僕達は三人でオジサンの御墓参りして年越し。お蕎麦食べて飲んで喰って就寝。
凄く寒い所だから、夜中にオシッコがしたくて目が覚めたのね。それでトイレに行ったんですが、、、、ボットン便所なんだよねえ、、、。今どき在るのね〜ボットン便所。僕、嫌いなのよ。見た事無かったから。落っこちそうで嫌なの。突然床が落ちて、クソまみれになったらどうしよう?とか考えちゃうのよ〜。
それで、、、、、戻って来て布団に入ったのね。寝つけないから煙草吸ってたの。丁度オジサンの仏壇が在る部屋だったんですが、、、、、ふと視線を感じて仏壇と枕元の間のスペースに目を遣ったの、、、。
そしたら
そしたら
そしたら
胡座をかいて座ってる!中年の男の人!しかも煙草吸って、僕を見下ろすようにガン見してるのよ!
直感的に分かった!オジサンだ、、、。この人。反射的に「え?オジサン?」って膝に手を当てたら消えちゃった、、、、。
僕の手は空を切って畳に突いた。
セブンスター吸ってた。昔のマイルドセブン。煙草の銘柄の印刷迄、顔の皺迄見えました、、、、、、。お化けって煙草吸うのね?紫の煙もオジサンと共に消えたけど、、。
翌朝、オバサンに恐る恐る聞いたの。「オジサンの吸ってた煙草って、銘柄は何?」
「オジサンの吸ってた煙草って、銘柄は何?」
そうしたら、オバサン持って来た。
「これよ。未だ余ってるから、、、、どうして???」
オバサン怪訝そうに聞く。当たり前田のクラッカーだわね?(ふ、古いギャグでしたね、、、父のお気に入りなので。)
恥ずかしかったけど、オバサンとアイツに夕べの出来事全て話したの。オバサンはニッコリ笑って言った。
「お前、何処の子だって聞かれなかった?」
笑い出すオバサン。そして青ざめるアイツ。
セブンスターを吸ってたの。オジサン。短髪で僕が知ってるオジサンじゃ無かったの。そうしたら、オバサンがアルバム持って来た。
「こんな感じだったでしょう?」
そこには、パーマをかける前の、癌に体を蝕まれて痩せこける前の、ドッシリ太った短髪のオジサンが写っていたのね。
僕は血の気が一気に引いた、、、、、、この人だ。
オジサンは僕をジッと見ていた。煙草を吹かしながら、、、、。
僕は普段から、アイツの部屋の仏壇に話し掛けていた。「オジサン、リンゴ買って来たよ〜。あとで筑前煮も出すから食べてねえ。」
「オジサン、アイツちょっとだらしなさ過ぎてダメダメだよ〜。オジサンからも何か言ってやってくれよ〜。」
いつも話していた。
いつも話し掛けていた。
いつも一日の報告とかしていた。
いつも一緒の御飯を食べていた。
いつも拝んでいた。
オジサン、来てくれたんだね?いつも見ててくれるんだね?
アイツに言った。
「感謝しろよ。親って有り難いなあ。死んでも尚、心配なんだぞ?」
アイツは泣き出す僕を見て、ジッと考え込んだ。そしてポロポロ落涙。そんな僕らを見て、オバサンはニコニコしてた。嬉しくて仕方ないのね。
「お父さん、有り難うね。あたしは幸せだわ。」
とても素敵な正月だった。オジサンの素敵なプレゼント。
来てくれた、、、、、。
もう大分昔に別れてしまったアイツ。アイツの事はどうでも良いけど、オバサンはお元気かしらね?糖尿病が酷くなって、とうとう娘さんの家に引き取られて行った。別れて何年も経つ息子の恋人に挨拶の葉書を書いたオバサン。
「有り難うね。有り難うね。あなたには迷惑を沢山掛けたわ。息子共々大変お世話になりました。あたしこの度、娘の所に厄介になりに行くの。いつまでもお身体大切にね?お元気で。」
そう書いて有った。
僕は独り、部屋で泣いた。
嬉しくて、切なくて、悲しくて、、、、僕はどうしたら良いのだろう?
オバサンが入院してる部屋に、一抱えも有る花束を持って行くのが大好きだった。ニコニコして花束を抱えて笑うオバサンが大好きだった。
僕は会いに行きたい。前から思ってた。でも、どのツラ下げて会いに行ったら良いのか分からない。でも、天国に行く前に会っておきたい。
あの人の息子に生まれて来たかったな。そう言ったら、オバサン、凄く照れていた。嬉しそうに。そして言った。
「息子が二人になったわ。」
僕は生涯、きっと忘れない。そしてオジサン、有難う。御免ね。僕はアイツに我慢が出来無かった。きっとオバサンに会いに行くから。そうしないと、きっと後悔するから。その時は泣いちゃうかも知れないけど、、、、その時は御免ね。
|